妖精事務員たみこ 通勤の掟 とりあえずそういうことで

妖精事務員たみこ 営業の掟
「妖精事務員たみこ」は、おしゃれでシュールでアヴァンギャルドな泣いて笑ってビジネスの役にもたつ、盛りだくさんのコラムです。めでたし、めでたし。

【妖精事務員たみこ 営業の掟 その1】 BY かねこ・きくえ



 むかしは、わざわざ雨の日に、カサをささないでズブ濡れになって訪問して相手を感動させる営業マンとか、転んで血のついた「血染めの見積書」で仕事をとった営業マンとか、営業活動も命をかけて創意工夫していたそうです。最近、営業スタイルが欧米化されて、日本の独自の文化が失われていることに危機感をもつ きくえ先生は、営業の人にあうごとに「和魂洋才」と書いた色紙をプレゼントしています。

 鉄拳営業部長 南出藻 売象(なんでも うるぞう)のいる営業1部は、営業の神様といわれえる伝説の営業マンが集まっています。
 たみこは、営業強化期間中、営業1部の仕事をお手伝いすることになりました。営業は、フットワークが大事と聞いていたので、大根丸はディパックに入れて背中にしょってきました。まるで、夕食の買出しにきたみたいです。

 たみこが事務所にゆくと、南出藻部長以外は誰もいませんでした。
「営業マンは、売ってナンボやからね。日中は、みんな営業にでとる。」
 と南出藻部長は、おかしな関西弁で たみこに説明してくれました。
 と、そこへ、ひょろっとしたやせぎすの白髪の紳士があらわれました。
「はじめまして」
 たみこが、挨拶すると、白髪の紳士は、軽く会釈をして
「とりあえずそういうことで・・・」
 とつぶやきました。
 この紳士は、”とりあえずのマツ”といわる伝説の営業マンなのでした。
「どんなに相手が無茶な注文を出しても、”とりあえずそういうことで・・・”とこいつがいうと、うまくまとまってしまうんや」
 南出藻部長が、豪快に笑いました。


【妖精事務員たみこ 営業の掟 その2】 BY かねこ・きくえ


ネットビジネスの聖地渋谷マークシティの近くに出来た屋台風のタイ料理屋のオーナーは、まっかなTシャツを着て呼び込みをしている若者です。単身アメリカで起業し、成功した後、会社を売却して、日本でまた起業したそうです。普段のようすからは、そのようなハイブローな経歴は連想できません。「人に歴史あり」。
その料理屋の全メニューを制覇した きくえ先生にはげましのお便りをだそう。

「ドンガンドンガラガッタ!!!」
 大きな音がして、がっちりした見るからに体育会系の男性が、いきおいよくとびこんできました。
「よろこんで! 部長、トンデモ建設、タイアップ受注しました!」
「よくやったな! たみこくん、こいつは、うちのホープの”ドカーンのゴン”だ。元気いいだろ? 営業はこうでなくちゃな。」
「君がお手伝いのたみこくんか、バーンとがんばってくれ。オレなんか、今日、トンデモ建設でさ、ダーッとアポとって、ドカーンと提案して、ガツンと決めてきたんだぜ。なんかわからないことあったら、ガンガン聞いてくれよ。」
 ゴンがしゃべる度に、窓ガラスが、びりびりと振動しました。たみこは、”ドカーンのゴン”のあまりの大声といきおいに圧倒されてしまいました。わからないことを聞いてくれといわれても、そもそもゴンのいっていることが、よくわからないのでした。”とりあえずのマツ”の方を見ると、耳に綿をつめていました。
 たみこは、部長に頼まれたコピーを渡しながら、ちらりとゴンの出した営業報告書を見てみました。




【妖精事務員たみこ 営業の掟 その3】 BY かねこ・きくえ



 提案内容 企業イメージアップのタイアップ広告をバリバリ 300万円。
 コンタクト状況と成約可能性
   6月12日 訪問上等。どひゃーとくる。 受注確度A
   6月18日 概要説明。ビリビリくるぜ。 受注確度AA
   6月22日 提案、見積り。ドカーン、ドカーン、ズダーン。 受注確度AA
   6月25日 受注決定。チュドーン。
「あ、あのー、営業報告って、こういうものなんですか?」
 たみこは、まるで、散文詩か、小学生の日記のようだと思いました。
「うん? わかっとらんね。管理部では、受注確度が、なんパーセントとか、もっと具体的に、営業状況を書いてくれとかいってるようだが、そもそも営業は、そんな機械的なもんじゃないんだ! 営業は人対人の激突! オフィスの格闘技なんだ! 機械的な数字や説明なんかよりも、格闘家同士がわかるセンスさえあればいいんだ。わたしや彼らは、格闘家同士として、この文字の中に隠されたいろんな意味を読み取ることができるんだよ。」
 びっくりしているたみこに、部長は、話を続けました。
「例えばだな。わたしがなんかが”訪問上等。どひゃーとくる。”を読むと、最初の訪問で32才の課長と52才の部長がでてきて、再度、くわしい説明をして欲しいといったという状況が目に浮かぶ。しかも、その部長は、カツラだ。」  南出藻(なんでも)部長がそういうと
「どひゃー、部長その通りです」
 ゴンが、大声で答えました。声の振動で蛍光灯が落ちました。なれている様子で、”とりあえずのマツ”がかたします。


【妖精事務員たみこ 営業の掟 その4】 BY かねこ・きくえ



最近、ゲームセンターでソウルキャリバー2にこっている かねこ・きくえ先生は、負けると無意識にゲームの筐体を蹴飛ばしているそうです。「これで、あたしもキレる若者の仲間入りだわ」とよろこぶ先生にはげましのお便りを出そう。

「いいか、営業は格闘技! 相手との技の読み合い! そのセンスは、報告書の書き方や計画の立て方なんかじゃ身につかないんだ。」
 部長は、そういって壁の営業成績表を指さしました。
「うちの部では、普通の販売成績だけじゃなくて、格闘ゲームの成績表もつけているんだ。」
 たみこは、びっくりして、よく見ました。
「あそこの一番左の成績表。あれが、格闘ゲームの成績表だ。KOFとか、VF4E、SC2というのがわかるかね?」
 たみこの耳に、背中にしょった大根丸が耳打ちしました。
「KOFは、キングオブファイターズ、VF4Eは、バーチャファイター4エボリューション、SC2は、ソウウルキャリバー2だよ。」
 たみこは、いわれた通りに答えました。
「よしっ! たみこくんは、見所あるじゃないか、格闘ゲームで人と人との読み合いを磨くのがわが部の方針だ。今週末に、SC2の大会があるんで、たみこくんも参加してくれたまえ。いっておくが、よくいるアキラ使いのように、相手の技を読まないで、同じ攻撃ばっかり繰り返すようなヤツはうちの部には不要だから気をつけてくれ。稲穂刈りばっかりやるミツルギなんかはすぐにクビだぞ。」
 部長の目には、格闘家としての炎が燃えさかっていました。
「で、どのキャラを使うのかな?」
 部長は、たみこのひとみをのぞきこんでいいました。
 大根丸が、たみこの声色で答えました。
「タリム・・・」
 いったとたんに、オフィスの空気がピンと張り詰めました。一陣の風がどこからか、吹いてきます。心なしか、好奇心と闘争心の入り混じったみんなの視線が、たみこにそそがれているような気がします。
「ほほー、”最後の巫女”風使いか・・・」
 部長は、大きな口をあけて、にっこり笑いました。



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