とりあえずそういうことで
◆ 妖精事務員たみこ のオフィス図鑑 ◆
●精神衛生の掟 その5 果てしなき戦闘の彼岸 2 解脱四天王
自殺戦隊シヌンダーの一員、”リストカッターのお竜”は、その日、大きな仕事のプレゼンを終えたばかりでした。高揚したプレゼンの後には、必ずいつも危険な香りの鬱な気分が襲ってくるのです。
”リストカッターのお竜”は、自分のマンションで電気を消して、ぼんやりとしていました。どうせなにをしても、なにをみても楽しくないのです。
と、玄関の新聞受けの隙間からこっそりと解脱戦隊ボクネンジンのひとり=”自己開発”が忍び込みました。トンボのような羽で部屋の中を飛び回りながら、様子をうかがっています。
やがて”リストカッターのお竜”は、大きく吐息をついて、ぶつぶつとひとりごとをいいはじめました。
− よし! いまだ! −
”自己開発”は、病院から暗い顔で出てきた人を見つけた**学会員のようなものすごい勢いで”リストカッターのお竜”の耳元に近づきました。
「さあ、君はなにもかもがつまらないと感じている。でも、同じように他の人たちは君のことをつまらないダメなヤツと思っているんだ。」
”自己開発”の体内に埋め込まれた自己嫌悪回路が、いやみな声の効果を倍増します。打ち寄せる荒波のような声の嵐に”リストカッターのお竜”は、すっかりしょげかえってしまいました。
「ちょっとは、人に自慢できることがあるならいってみろ」
「そんな小さな声だと聞こえないぞ」
「おまえには、ほんとうのともだちがいるのか?」
いじめっこのような言葉をジャブのように、次々とすばやく繰り出してゆきます。”リストカッターのお竜”は、”自己開発”の自己嫌悪回路に翻弄されてゆくのでした。
「大きな声で”元気です”といってみろ」
「”元気いっぱいです”といってみろ」
めいっぱい”リストカッターのお竜”を落ち込ませたあとで、”自己開発”は畳み掛けるように今度はハイになるように仕向けてゆきました。
「元気です!」
”リストカッターのお竜”は、思わず叫んでしまいました。叫びながら、ぼろぼろと泣いていました。頭の中がハイになって、カラッポになってゆきます。
「元気でーす」
”リストカッターのお竜”は、わんわん泣いていましたが、泣きながらなんだかとてもすがすがしい気分になっていました。さきほどまでの死にたいような気分はどこかにふきとんでいました。それよりも早く誰かに、ひとりでも多くの友達にもこの感動を味合わせたくなっていました。
思わず手元の電話をとるとシヌンダーの同士に電話していました。
「ほんとうの友達っている?」
ものすごいハイテンションな問いかけに、電話の相手は一瞬絶句してしまいました。
「解脱戦隊ボクネンジン ”自己開発”。”リストカッターのお竜”の人格改造完了。人間なんて、かんたんに変わります。」
”自己開発”は、そういい残すと、仲間の元へと帰ってゆきました。
さあ、いよいよ最終回! のはずだったんですが、またまた挿絵を描いていたら終わりませんでした。すいません。
妖精事務員たみこ
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